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実験小動物における寄生虫検査についての考え方

 一言で寄生虫といっても、その中には原虫類、蠕虫類および節足動物までを含む多彩な生物が包含される。これら寄生虫の多くは、虫卵から虫体になるまでに変態を繰り返し、ある時期は無性生殖を行ないながらさらにそれぞれの過程で寄生宿主を替えていくといった複雑な生活環をもっている。この寄生虫が自らの生活環を完成させ、有性生殖が行なわれる宿主を終宿主、その終宿主に到達し成体になるまでに無性生殖や幼虫の発育のために通過する宿主を中間宿主とよんでいる。中間宿主としては哺乳動物のみならず昆虫など多彩な動物種が含まれる。

 実験動物を広義の意味での生物実験に使用される全ての動物ということでなく、狭義の意味で生物実験のために作出・維持されている動物ということに限定すれば、それらは一定の飼育環境を維持し、さらに他の動物との隔離をする目的で、専用の動物室で維持されているものということになる。捕獲した野生動物を実験に供する場合は、上記の定義からすると、これは実験動物の使用ということにはならない。この狭義の条件を満たした動物であれば、閉鎖環境下で育成されているため、必然的に中間宿主を必要とする寄生虫は、親から仔へ感染できないため、たとえ親が汚染していてもそこから得られた仔はその寄生虫フリーとなる。当然、そのような寄生虫は実験動物の微生物学的品質管理といった立場から見れば、検査項目に挙げる必然性は無くなるわけである。実験動物として作出・維持されている動物の寄生虫として検査対象となるものは、その生活環に中間宿主を必要としないものということになる。

 寄生虫には宿主に病気を引き起こす病原性の強いもの、弱いもの、あるいは病原性を示さず宿主との共生関係を樹立しているものなど様々である。一方、微生物学的コントロールの進んだ実験動物でSPF動物といわれているものがある。これは厳密に言えば、帝王切開由来、人工保育で作出された無菌動物に正常細菌叢を定着させ、これをバリア施設で維持・継代し、さらに特定の微生物汚染の無いことが検査によって確認されたものを指している。このSPF動物の定義からすると、正常細菌叢の中には寄生虫は含まれないため、当然これら動物はその病原性の有無にかかわらず、寄生虫フリーということになる。一方、微生物学的コントロールの不十分なコンベンショナル動物は、病原性の弱いあるいは共生状態にあるような寄生虫が比較的高率に汚染していることが知られている。

 以上、実験動物の微生物コントロールの点から寄生虫検査を考えると、対象となる検査項目は中間宿主を必要としない全ての感染性を有する寄生虫ということになる。さらに、検査個体がどのような寄生虫に感染しているかを調べる目的ではなく、特に検疫などの目的で対象となる動物群の微生物学的品質を推察しようとする場合、まずは寄生虫の有無、それもコンベンショナル動物に広く汚染が認められている寄生虫を調べてみるということも重要であると考える。すなわち、広く汚染が認められる寄生虫の有無を調べることによって、対象動物がSPF動物であるのかコンベンショナル動物であるのかを推察できるということである。中間宿主を必要としないという点と、かつその病原性からではなく実験動物での汚染度 (prevalence) という二つの理由によって、検査項目に取り上げられる寄生虫、ならびにそれらの検査方法を以下に紹介する。

実験小動物の寄生虫

原虫類:

 原虫類は単細胞生物で、その中には肉質鞭毛虫類、胞子虫類、繊毛虫類が含まれる。なかでも実験小動物の消化管内で自由生活する鞭毛虫類やアメーバなど肉質鞭毛虫類はコンベンショナル動物で比較的高率に汚染が認められる。中には病原性有りとされるものも含まれるが、多くは非病原性とされるものである。

肉質鞭毛虫類:

 実験小動物に病原性を示すとされる肉質鞭毛虫類はGiardia murisSpironucleus murisの二種である。これらは小腸に寄生し、多数寄生の場合、下痢などの症状を引き起こすといわれている。しかし、我々の経験ではこれら鞭毛虫類の寄生を認めても下痢や軟便を呈しているものに遭遇したことはない。上記二者以外の非病原性肉質鞭毛虫類はアメーバ類、鞭毛虫類にはトリコモナス、オクトミタス、キロマスティックスなどがある。これらはコンベンショナル動物での汚染率は高いが、SPF動物では汚染がほとんど見出されない。このことは、これら非病原性肉質鞭毛虫類が被検動物の微生物学的品質管理の程度を推察できる有効な指標になることを意味している。血液内寄生鞭毛虫としてトリパノゾ-マがあるが、これは生活環に中間宿主を要するため、ここではふれない。

胞子虫類:

 コクシジウムやトキソプラズマなどが含まれる。コクシジウムは感染性を有する単位としてのオーシストの経口摂取によって伝播する微生物であり、中間宿主を必要としないものとして、腸管に寄生するEimeria spp. や腎臓に寄生するKlossiella spp. などがある。トキソプラズマはネコが終宿主であり、齧歯類は中間宿主という関係にある。微胞子虫類としてはEncephalitozoon cuniculi がある。主にウサギの病原体である。ウサギでは腎炎や脳炎を起こすことが知られているが、感染しても発病することは稀である。

繊毛虫類:

 実験動物で検出される繊毛虫類はすべて大腸寄生で、通常は非病原性である。

蠕虫類:

 この中には吸虫類、条虫類、線虫類、鉤頭虫類が含まれるが、線虫類の多くと一部の条虫類を除き、その生活環に中間宿主を必要とする。よって、実験小動物の寄生虫として取り上げられる対象は多くはない。

線虫類:

・蟯虫類

 この中にはSyphacia spp. (ネズミ盲腸蟯虫) やAspicularis tetraptera (ネズミ大腸蟯虫) が含まれる。マウスやラットの最もポピュラーな線虫類である。その他、ハムスターやウサギの蟯虫としてはS. mesocricetiPassalurus ambiguus がある。一般的に蟯虫は組織に侵入することはないため、明確な病原性を示すことは稀である。最近の成績では、A. tetraptera が大腸壁の肥厚を引き起こすことが明らかになっている。特に、A. tetraptera 以外の蟯虫は、肛門周囲に産卵するという特性があるため、肛門周囲に産み付けられた虫卵をセロファンテープ法によって検出するという検査方法が採用されることがある。

Trichosomoides crassicauda

 膀胱に寄生する鞭虫である。幼虫包蔵卵が宿主に経口摂取されると、胃内で孵化し、胃壁から血行性に腎臓や膀胱に達し成熟する。膀胱での炎症像は顕著でない。感染動物が他の動物に食べられない限り、実験動物施設内では病気は伝播しないようである。

Capillaria hepatica (肝毛細虫)

 野生齧歯類の肝臓に寄生する鞭虫である。寄生部位である肝臓に病変を形成するが、虫卵は肝臓に留まったままである。よって、感染動物が他の動物に食べられない限り、実験動物施設内では病気は伝播しない。

条虫類:

Hymenolepis nana は自然界の齧歯類に普通に認められ、かつ中間宿主を介さない直接感染も可能な唯一の条虫である。

吸虫類と鉤頭虫類:

 これらは生活環に中間宿主を必要とする寄生虫である。様々な動物種が維持されていたり、野生生物が自由に出入りしているような動物施設由来の動物でない限り、汚染が継続することはない。

節足動物

 実験小動物において問題になるのは、外部寄生虫として一括されるダニ、シラミ、ノミである。これらの中には動物から血液あるいは体液を吸うもの、あるいは毛嚢内に寄生するものがあり、脱毛、皮膚の発赤や肥厚といった皮膚病を引き起こすものがある。さらにはこれら外部寄生虫の中には中間宿主となり、あるいは伝染病の媒介生物となり、実験動物への病原体の伝播を媒介する。当然のことながら、SPF動物ではこれら寄生虫が見出されることはないが、コンベンショナル動物では外部寄生虫汚染が散見されている。実験小動物で高頻度に見出される外部寄生虫はダニとシラミである。以下に代表的なものを紹介する。

Ornithonyssus bacoti (イエダニ)
 多くの齧歯類、肉食獣、ヒトにも寄生する。吸血時にのみ宿主に寄生する。
Myobia musculi (ハツカネズミケモチダニ)
 マウスの被毛に寄生し、細胞外組織液を摂取する。重度な感染では掻痒、脱毛、皮膚炎および掻爬による外傷が認められる。
Radfordia spp.
 マウスやラットの被毛に寄生する。症状についてはMyobia musculi と類似している。
Mycoptes musculinus (ネズミケクイダニ)
 マウスの体表に寄生し、表皮組織を摂取する。病原性は弱く、まれに頭部に脱毛や発赤を引き起こす。実験動物としてのマウスやラットの被毛に寄生するダニとしては、MyobiaRadfordiaMycoptes が一般的である。
Psoroptes cuniculi (ウサギキュウセンヒゼンダニ)
 ウサギの外耳道に寄生し、痂皮や組織を摂取する。強い掻痒感のため、耳をひっかいたり外耳道からの分泌物の流失が認められる。罹患動物は病変が外耳道のみならず、顔面までおよぶことがある。今でもコンベンショナルウサギで本感染が見出されることがある。
Polyplax spp.
 このシラミ目の生物は吸血する。吸血による掻痒、皮膚炎を引き起こす。被毛に産み付けられた卵から幼生期を経て成虫となる。

寄生虫検査方法

 ここでは上記寄生虫の検出に常用される、糞便や消化管内容物あるいは被毛を対象とした肉眼検査と顕微鏡検査を主体に説明する。

肉眼検査

 糞便や消化管内容物あるいは被毛材料について、肉眼検査によってある種のダニ、蠕虫類の虫体あるいは条虫の片節などを検出する方法である。

顕微鏡検査

 顕微鏡を用い、虫体、幼虫、虫卵あるいは嚢子などを検出しようとするものである。

直接法:

 新鮮糞便、新鮮な消化管内容物、被毛あるいは皮膚の掻爬材料に生理食塩水を加え遊出してくる虫体などを、実体顕微鏡下検出する。あるいは、少量の糞便や盲腸内容物をスライドグラスに取り、そこに生理的食塩水を少量滴下後撹拌する。これにカバーグラスを載せ、顕微鏡下観察する。標本の乾燥を防ぐ目的で、カバーグラスの周囲をワセリンで囲むこともある。寄生虫の細かな構造はわかりにくいが、おおよその形態と、運動性を知ることができる。原虫などの検出に適している。

集卵法:

 虫卵やコクシジウムのオーシスト検出のためには、集卵法が採用される。これは比重を利用して浮遊させる方法と、薬品処理で残渣を少なくした後で虫卵を沈渣中に集める方法に大別される。浮遊法を紹介する。糞便材料などを十分量の飽和硝酸ナトリウム液 (比重1.4) や飽和食塩水 (比重1.2) に懸濁静置後、上清を採取し、顕微鏡下観察するものである。一部の虫卵は比重が重く、飽和食塩水では浮上しない。

セロファンテープ法:

Syphacia spp. のように身体の特定の部位に産卵する習性を有する場合や、被毛に寄生するダニやシラミといった外部寄生虫の検出に採用される検査方法である。すなわち、肛門周囲や背部の被毛に押しつけたセロファンテープをスライドグラスに貼りつけ、顕微鏡下虫体や虫卵を検出する方法である。

病理組織学的検査

 通常の病理組織学的標本を作成し、その切片上で寄生虫の有無、あるいは特定の寄生虫によって引き起こされる特異的病変の有無を調べる方法である。

免疫学的検査

 上記の2方法は寄生虫を検出する直接的方法であるが、細菌やウイルス感染と同様に、感染の結果産生された抗体を検査する方法もある。しかし、この免疫学的検査では比較的高率に偽陽性反応に遭遇することが知られている。さらに、これまで実験小動物の寄生虫として取り上げた項目については、虫体や虫卵の肉眼や顕微鏡を用いた直接的な検出が一般的に採用されている。抗体を調べるなどといった間接的な方法はあまり採用されていない。